身体が冷えやすい人と、そうでない人は何が違うの?
― 東洋医学から考える、身体を温める力と気血の巡り ―

「手足がいつも冷たい」
「周りの人は平気なのに、自分だけ寒く感じる」
「身体は温まっているはずなのに、足先だけ冷たい」
同じ部屋で過ごしていても、冷えを感じやすい人と、あまり気にならない人がいます。
また、以前は気にならなかったのに、年齢を重ねるにつれて冷えを感じるようになったという方もいらっしゃいます。
冷えやすさには、体格や筋肉量、血液の流れ、体温を調節する働き、生活習慣など、さまざまな要因が関係しています。
東洋医学でも、冷えを単に「身体が冷たくなっている状態」として捉えるのではなく、
身体を温める力が十分にあるか、
温かさを全身に届けられているかという視点から考えます。
今回は、冷えやすい人とそうでない人の違いについて、東洋医学の考え方を交えながら解説します。
1.身体を温めるには「熱をつくる力」と「届ける力」が必要
身体が温かく保たれるためには、熱を生み出すことと、その熱を全身に届けることの両方が必要です。
例えば、暖房器具に置き換えて考えてみましょう。
暖房器具そのものが十分に温まらなければ、部屋を暖めることはできません。
一方で、暖房器具が温まっていても、温かい空気が部屋全体に行き渡らなければ、場所によって温度差が生まれます。
身体も同じように考えることができます。
- 熱をつくる力:身体の活動や代謝などによって熱を生み出す働き
- 熱を届ける力:血液の循環や体温調節などによって、身体の各部位の温度を保つ働き
熱を生み出す働きが十分でない場合と、
身体の中心部と手足などで温度差が生じやすい場合とでは、
同じ「冷え」でも背景が異なります。
東洋医学では、これらを考える際に「気」の働きや「血」の状態にも注目します。
気は、身体を動かし、さまざまな働きを支えるものとして考えられています。
血は、身体を養うものとして捉えます。
気が不足しているのか、気血の巡りが滞っているのか。
それとも、身体を養う働きが十分でないのか。
こうした違いによって、冷えの現れ方も変わってくると考えます。
2.東洋医学で考える「身体を温める力」
東洋医学には、身体を温める働きに関係する「陽気(ようき)」という考え方があります。
陽気は、身体を温め、活動を支える働きと関係しています。
この働きが十分に保たれていれば、身体は温かさを維持しやすいと考えます。
一方で、陽気が不足していると考えられる状態では、身体を温める力が弱まり、冷えを感じやすくなることがあります。
このような状態を考えるうえで、関係するのが「気虚(ききょ)」です。
気虚とは?
気虚とは、簡単にいうと、身体の働きを支える気が不足している状態を指します。
東洋医学では、気は身体を動かすだけでなく、温めたり、必要なものを身体の中に保ったりする働きにも関係すると考えます。
そのため、気が不足すると、冷えだけでなく、疲れやすい、身体が重だるい、活動する気力が出にくいといった状態を伴うことがあります。
例えば、以前より疲れやすくなり、少し動いただけでも消耗する。手足が冷えやすく、休んでもなかなか元気が戻らない。
このような場合、東洋医学では、身体を支える気が不足していないかという視点から状態を考えます。
ただし、冷えや疲れがあるからといって、必ず気虚というわけではありません。
気の不足以外にも、気血の巡りや身体を養う働きなど、いくつかの要因が関係するためです。
気を生み出す働きも関係する
東洋医学では、気は生まれ持ったものだけでなく、食事や呼吸などを通して得られるものによっても支えられていると考えます。
特に、飲食物から必要なものを取り入れ、身体が利用できる形にしていく働きは、脾(ひ)の働きと関係しています。
ここでいう「脾」は、現代医学でいう脾臓だけを指すものではありません。
飲食物から気血を生み出す働きなどを含めた、東洋医学独自の概念です。
食事が十分に取れていない、食欲が落ちている、胃腸の調子がすぐれないといった状態が続くと、東洋医学では、気を生み出す働きが十分でない可能性も考えます。
気を生み出す力が不足すれば、身体を温める働きにも影響すると考えられます。
つまり、冷えを考えるときには、単に身体を温めるだけでなく、身体を温めるための力を生み出せているかという視点も必要なのです。
3.身体の中心は温かいのに、手足が冷えるのはなぜ?
冷えのご相談では、
「お腹はそれほど冷たくないのに、手足は冷たい」
という方もいらっしゃいます。
このような冷えを考えるうえで、身体の中心部と手足の関係が重要になります。
身体は、脳や心臓などの重要な臓器がある中心部の温度を一定に保とうとしています。
寒い環境では、身体の中心部の温度を保つために、手足などの末端へ向かう血流が減少することがあります。
その結果、手足が冷たく感じられる場合があります。
これは現代医学的にも説明される身体の反応です。
東洋医学でも、身体の中心と末端の温度差を考えるとき、身体を温める力や、温かさを全身に行き渡らせる働きに注目します。
身体の中心部を温める必要があるとき、手足などの末端まで十分に温かさが届きにくくなる状態を考えるのです。
ただし、手足が冷たいからといって、必ず内臓が冷えているとは限りません。
手足の冷えには、寒さに対する身体の反応、血液循環、筋肉量、活動量なども関係します。
東洋医学でも、手足の冷たさだけで身体の状態を決めるのではなく、ほかの症状や全身の状態と合わせて考えます。
4.温かさが全身に行き渡らないのはなぜ?
身体を温める力があっても、その温かさが全身に行き渡りにくい場合があります。
東洋医学では、気には身体を動かし、巡らせる働きがあると考えます。
この働きは「推動作用(すいどうさよう)」と呼ばれます。
推動作用は、気や血などを動かし、巡らせる働きに関係するものです。
この働きが十分でないと考えられる状態では、気血が巡りにくくなり、身体の一部に冷えやこわばりなどが現れることがあります。
また、気の巡りが滞っている状態は「気滞(きたい)」と呼ばれます。
気滞は、気そのものが不足している気虚とは異なり、気の流れが滞っている状態を指します。
例えば、疲れやすく身体を温める力が不足している場合と、緊張やこわばりなどによって気血が巡りにくい場合とでは、東洋医学的な捉え方が異なります。
実際には、気虚と気滞の両方が関係している場合もあります。
首・手首・足首と冷えの関係
身体の冷えを考えるとき、首・手首・足首にも注目します。
これらの部位は、身体の中心部と手足をつなぐ場所にあり、衣服などで覆われていないと外気の影響を受けやすい部分です。
特に首は、頭部と体幹をつなぐ部位です。
首や肩の筋肉が緊張して硬くなっている方では、首のこわばりとともに、頭が重い、肩が張る、手先が冷たいといった不調を感じることもあります。
東洋医学では、首や肩のこりを局所だけの問題として捉えず、気血の巡りや全身のバランスとの関係から考えることがあります。
ただし、筋肉のこりがあるからといって、必ず気血の流れが滞っていると断定できるわけではありません。
また、首が硬いこと自体が、手足の冷えの直接的な原因だと決まっているわけでもありません。
首・手首・足首は、冷えの影響を受けやすい場所であり、
こわばりや冷えが気になるときには、身体全体の状態と合わせて考えることが大切です。
首や肩の緊張が強い方は、長時間同じ姿勢を続けていないか、身体に力が入り続けていないかなど、日常生活も振り返ってみるとよいでしょう。
5.「温かい気は上へ、冷たい気は下へ」という考え方
東洋医学では、温かい性質のものは上へ向かい、冷たい性質のものは下へ向かうという考え方があります。
この性質を踏まえると、身体の上部は熱がこもりやすい一方で、下半身や足先は冷えやすいという状態も考えられます。
例えば、顔はほてるのに足先は冷たい。上半身は暑く感じるのに、下半身は冷えている。
このように、身体の上と下で温度の感じ方が異なる方もいます。
東洋医学では、こうした状態を単純に「身体全体が温かい」「身体全体が冷えている」とは考えず、身体のどこに熱感があり、どこに冷えがあるのかを確認します。
ただし、「温かい気は上へ、冷たい気は下へ」という説明は、東洋医学の考え方を表すものであり、気温や熱が身体の中で文字どおり移動することを示したものではありません。
また、上半身のほてりと足の冷えがあるからといって、必ず同じ原因があるとも限りません。
身体を温める働き、気血を巡らせる働き、身体の上部と下部のバランスなどを合わせて考える必要があります。
6.同じ冷えでも、原因の捉え方は一人ひとり違う
ここまでご紹介したように、冷えやすさにはいくつもの要因が考えられます。
東洋医学では、例えば次のような違いに注目します。
- 気虚:身体の働きを支える気が不足し、疲れやすさや冷えが現れていると考えられる状態
- 気滞:気の巡りが滞り、こわばりや張りなどを伴うことがある状態
- 血の不足や働きの低下:身体を養う「血」の状態が十分でないと考えられる状態
- 陽気の不足:身体を温める働きが弱まっていると考えられる状態
これらは、冷えを考える際の代表的な視点です。
実際には、これらが単独で現れるとは限らず、複数の要因が重なっている場合もあります。
また、同じ「手足が冷える」という訴えでも、
疲れやすさが目立つ方、
首や肩のこりが強い方、
お腹の冷えを感じる方、
顔のほてりを伴う方では、
身体の状態が異なる可能性があります。
そのため、冷えのある場所だけを見て判断するのではなく、
睡眠や食事、便通、疲れやすさ、汗のかき方、寒さや暑さの感じ方なども含めて考えていきます。
7.経絡治療では、冷えている場所だけを施術するわけではありません
しんしん調和鍼灸院で行っている経絡治療では、冷えを感じる場所だけでなく、身体全体の状態を確認します。
東洋医学の四診法(望診・聞診・問診・切診)を通して、お話を伺い、脈やお腹、経絡やツボの反応などを確認しながら、その方の「証(あかし・しょう)」を見立てていきます。
そして、本治法と標治法を組み合わせて施術します。
本治法では、全身の状態を踏まえて、気血や経絡のバランスを整えることを目指します。
標治法では、冷えに伴う首や肩のこり、身体の張りなど、現在気になっている症状にも目を向けます。
例えば、足先の冷えが気になっていても、足先に鍼やお灸をするとは限りません。
身体全体の状態を確認した結果、手や足など、冷えを感じている場所から離れたツボを使うこともあります。
同じ冷えの症状でも、毎回同じ施術をするわけではありません。
その日の脈やお腹、経絡の反応などを確認し、そのときのお身体に合わせて施術を組み立てていきます。
冷えを感じている場所だけでなく、身体全体の状態を見直すことも、経絡治療の特徴のひとつです。
8.日常生活で気をつけたいこと
冷えが気になるときは、身体を外から温めることだけでなく、日々の生活も振り返ってみましょう。
首・手首・足首を冷やさない
首元や手首、足首は、寒さの影響を受けやすい部分です。
気温に合わせて衣服を調節し、冷えを感じるときは、首元や足首などを覆う工夫をしてみてください。
食事を抜かず、無理のない範囲で食べる
食事は、身体が活動するためのエネルギーを得るうえで大切です。
食事量が少なくなっていたり、食事の間隔が大きく空いたりしていないか、振り返ってみましょう。
胃腸の調子が悪く、十分に食べられない状態が続く場合は、医療機関への相談も検討してください。
長時間同じ姿勢を続けない
座りっぱなしや、同じ姿勢での作業が続くと、身体を動かす機会が減ります。
無理のない範囲で立ち上がったり、肩や足首をゆっくり動かしたりして、こまめに身体を動かしましょう。
湯船につかり、身体を温める
体調に問題がなければ、湯船につかってゆっくり温まることもひとつの方法です。
熱すぎるお湯を避け、無理のない温度と時間で入浴しましょう。
入浴後は、湯冷めしないように気をつけてください。
なお、冷えが急に強くなった場合や、片側だけが冷たい、痛みやしびれ、皮膚の色の変化などを伴う場合は、鍼灸だけで対応しようとせず、医療機関で相談してください。
冷えが長く続く場合も、貧血や甲状腺の病気などが関係していることがあるため、必要に応じて医療機関で原因を確認することが大切です。
最後に
身体が冷えやすい人と、そうでない人の違いは、単に寒さに強いか弱いかだけではありません。
身体が熱を生み出す働き、温かさを全身に届ける働き、気血の巡り、日々の生活や体質など、さまざまな要因が関係しています。
東洋医学では、冷えをひとつの症状だけで判断せず、身体全体の状態から考えていきます。
「手足が冷たいから、足だけを温めればよい」とは限らず、身体を温める力が不足しているのか、巡りが滞っているのか、ほかの不調も関係しているのかによって、考え方も変わってきます。
冷えが気になる方は、普段どこが冷えるのか、どんなときに冷えを感じるのか、疲れやすさやこりなどを伴っていないか、少し意識してみてください。
無理に施術をおすすめすることはありませんので、「冷えやすい体質なのかな」「冷えと一緒に、ほかの不調も気になる」と感じる方は、一度ご相談ください。
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